一般社団法人 ジャパンオーラルヘルス学会

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口腔と全身疾患の関係

歯周病と全身疾患の関係

日本歯科大学生命歯学部
小川智久 准教授


歯周病が、全身の様々な疾患と深く関係していることをご存知ですか?

例えば、歯周病患者は脳梗塞や心筋梗塞(しんきんこうそく)などの循環障害になる確率が3〜4倍、早産(低体重児出産)は報告によって異なりますが3〜7倍の危険性があり、その他糖尿病や誤嚥(ごえん)性肺炎など多数の病気と関連しています。

歯周病程度と軽く考えがちですが、例えば糖尿病や心筋梗塞などは自覚症状が無いため、歯周病であると診断された人の中には、もうすでに様々な全身疾患の危険にさらされているかもしれません。

ここでは、歯周病について、より深く理解していただくための解説と、全身疾患との関連するメカニズムについて簡潔にまとめました。

歯周病は感染症

歯周病は歯周病原菌の感染により、発症・進行していきます。ブラッシング(口腔清掃)が疎かになったり、ブラッシングをしていてもみがき残しがあったりすると、プラーク( 歯垢)が蓄積されてきます。
このプラーク中には数百種類もの細菌が存在します。その歯と歯肉(歯ぐき)の隙間に数日間みがき残しが持続すると、接している歯肉に炎症が起こり赤く腫れてきます。この初期段階を歯肉炎と言い、歯肉に限局した炎症病変であるため、歯肉炎の状態であれば注意深くみがくことにより健康な歯肉に回復するのです。

自覚症状はほとんどない

しかし、この段階ではブラッシング時の出血くらいしか自覚症状がないために、ほとんどの人が治療にも行かないで見過ごされてしまいます。歯肉炎の状態で何も治療しないで放置されると次の段階へ移行し、歯を支えている骨( 歯槽骨)が吸収されてしまい、それにともない歯と歯肉の隙間がさらに深いポケット(歯周ポケット)が形成されてしまうのです(図1)。

歯周病への進行

「歯周病をなおそう」 沼部幸博監修より


歯周ポケットとブラッシング

この歯周ポケットの深さが歯周病の進行の目安となります。そのため、歯周治療を行なう際には必ず歯周ポケットの深さを測定します(図2)。歯周ポケットが深いとプラークが溜まりやすくなり、歯ブラシの毛先が奥まで届かなくなります。そのためブラッシングによる清掃が困難であり、さらに歯周病原菌が生息しやすい環境(歯周病原菌は嫌気性菌といって、酸素がない深いポケットの奥が絶好の生息地)になってしまい、歯周ポケットはより深化し、歯周病が進行してしまうのです。

歯周病の治療

「歯周病をなおそう」 沼部幸博監修より


全身へ影響をおよぼすメカニズム

歯周病が進行すれば、歯周ポケットは深くなります。それに伴い、歯周病原菌の数も当然増え、さらには生体内に侵入した細菌を排除するために白血球が歯周ポケット内へ大量に集積し、免疫・炎症反応が惹起されます。その際に産生されるサイトカインなどの物質や歯周病原菌が血液中に入り込み、血行に乗って全身へ移行し、様々な疾患と関連してくるのです(図3)。

歯周病に関連している全身疾患

「歯周病をなおそう」 沼部幸博監修より


歯周医学という考え方

1980年代後半から、歯周病と全身疾患との関連についての研究が行なわれるようになりました。その後多数のエビデンス(検証・臨床結果等)が蓄積され、歯周医学(Periodontal Medicine)という概念も台頭してきました。 
そこで、次回は歯周病と関連する全身疾患について紹介するとともに、歯周病がそれら疾患にどのように関与しているかについて解説致します。


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